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アビは厳格な世襲継承の国家であった。
どれだけ愚凡であろうとも、悪逆であろうと非情であろうとも
高貴な血の尊さは絶対であった。





「サラ!危ないから早く逃げるんだ!」「駄目よ兄さん!ヴィヴィを置いてゆけないわ!」隣の寝室では王と王妃が持てる限りの貴金属を掻き集め、自分達だけで脱出を図る一方、子供部屋には乳母にすら見捨てられた赤子王女が火のついたように泣いていた。

姉が抱き上げると赤子は安心したように泣きやんだ。「こっちだ!」兄がテラスへ誘導しようとしたその時、鋭い足音が隣の部屋へ駆け込んだ。息を殺してカーテンの裏へと隠れる子供たち。やがて寝室からは激しい物音と、断末魔の叫びが聞こえた。その劈くような悲鳴に、姉の手に抱かれた赤子が泣き叫んだ

「ヴィヴィ!駄目よ、お願い泣き止んで!」姉は必死にあやすが、無情にも寝室より硬い足音が近付いてくる。漂う血の匂い。やがて侵入者は窓布を暴き、姉と赤子を見つけてしまった。一瞬固まった男の姿に、兄は神がくれた最後のチャンスと、懐から出した護身用の刀を握り締め、駆け出した。

「妹達に手を出すな!!!」男の振り返るより早く、兄の短刀は男の右足を突いた。人の急所など知らぬ王子には精一杯の抵抗、男は苦悶の声を上げることなく手にした太刀を奮う。兄の小さな心臓は一突きで絶命に至った。姉は泣き叫び懇願する「お願い妹だけは見逃して!まだこんなに小さいのよ!」

しかし男は彼女の声を遮るよう、細い喉を突いた。姉は瞬時に事切れたが、最後まで赤子を離すことはなかった。姉の死骸から這いずり出した赤子に、男は太刀を構える。男はこれまで無数の人間を刀の錆にしてきたが、こんなに小さな的はなかった。

剣は柔い体を突き抜け床に刺さった。男は暫し、それを抜くことが出来なかった。やがて男の仲間が部屋に飛び込んだ。やったか、王を!歓喜に昂ぶる声は、しかし床に転がる三つの小さな遺体に気付くとその音を失った。沈黙に凍る部屋に階下からの歓声が響き渡る。それはクーデターの成功を意味していた。

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