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主人公側を最近あんま描けてないので、二人の出会いを文にした。漫画にはいつかしたい。でも長い。

【1】
頼り甲斐のある父だった。傭兵軍人であるがゆえ家に居ることは少なかったが、逞しい父の仕事姿を尊敬していた。
「俺がいない間は、お前が母さんを守ってやれ。約束だぞ」
大きな手が肩を抱く。母は病気がちで臥せっていることが多かった。だから父は、稼ぎの良い傭兵職から離れられなかったのだろう。良い薬はみな貴族らに渡ってしまって、貧民層がそれを手に入れるには大きな金が要る。

夏の盛り、その父が死んだ。貴族間のくだらない所領争いに駆り出され、沢山の爆弾に吹っ飛ばされて粉微塵になったという。遺体は戻らなかった。父の友人が、形見のドッグタグだけ渡してくれた。
母は深く嘆き、具合は日に日に悪化した。だが、父が死んだことを知った途端、医者は掌を返し薬を売らなくなった。
どれだけ頼み込んでも、拙い日仕事で稼いだ金を手に頭を下げても、門前払いされた。

か細くなる母の寝息に耐え切れず、初めて盗みを犯した。星の無い夜だった。
濃厚な闇に、早鐘のようになる心音を響かせながら、無我夢中で家まで走った。
母さん、薬だぜ、もう大丈夫だ!息を切らし叫んだ声に、しかし返る言葉はない。
母は既に冷たくなっていた。母の、ぽっかりと開いた口のその深い闇を、俺は生涯忘れることはないだろう。

港町ジュムには孤児が多い。俺がその中の一人になったところで、誰が気に留めただろう。
自分ですら何を思うことも無かった。思う暇も無かった。それからは毎日が盗みと逃亡の日々であった。
気付けば孤児同士、小さな徒党が出来ていた。ままごとのような盗賊団。俺はそのリーダー格となっていた。
父から教えてもらった武術のいろは、そして微かながらも魔法の類が使えたのが、学の無い孤児達には頼もしく思えたのだろうか。


【2】
ジュムは海に面している。厚い汚油に覆われた海は重く波打たない。
だがそれが一年に一度、嘘のように晴れる季節がある。
信じられないほど透明度を増した、コバルトブルーの海は美しく、どこからか魚までもが訪れる。アビで唯一の祭りの季節だ。
その絶世の景観ゆえに、ジュムは貴族らの保養地にもなっていた。今年もその季節が近付き、俄かに別荘区に活気が宿る。
それは同時に、彼らにとっては絶好の商売の季節でもあった。

「ハジ、今年はどの豚野郎から、お宝を盗んでやろうか」
肩を寄せ合いひそひそと囁きあう孤児らの顔は、松明の灯に深い影を刻まれながらも、やはり年相応に幼い。
「あの一際でかい、趣味の悪い別荘があるだろう。ああいうセンスの悪い野郎はお得意様だぜ。自分に良く似せて作った、金の豚の像がある筈だ」
少年達の笑い声が夜陰に響く。ハジがシッと腕を上げると、リーダーに従順な盗賊団の孤児らはピタリと口を噤む。
「昼間アデトの屋台で爺さん達が話してた。丁度今夜、豚野郎は見世物を公開するらしい。それも一般市民にまでお披露目するんだとさ
いいチャンスだぜ。警備が手薄な今、偵察がてら忍び込むことにしよう」


【3】
貴族の別荘は大層豪奢な装いであった。
金の豚は残念ながら見当たらないが、白磁の壷に銀の鎧。柱に刻まれた彫刻には色とりどりの宝石が埋め込んである。
アビでは稀少な花の匂いに噎せ返りながら、少年一同はそっと館の中央まで忍び込んだ。
そこは既に多くの人で賑わっており、中央にあるステージを囲むように一般市民が、
それを見下ろす形で、ぐるりと円状に底上げされたテラス階に、絢爛に着飾った貴族たちが、談笑しながら羽根扇子を召使いに仰がせている。
「気にくわねえなあ、俺たち、奴らのケツの下にいるんだぜ」
「さっき見つけた青銅の槍、やっぱり盗ってくればよかったんだよ。豚どもを突付いてやったら、面白かっただろうなあ」
「だけど奴らの的に当てるのは難しいぜ…なんてったって『ケツの穴の小せえ』奴らだからな」
少年盗賊達の潜めた笑い声を掻き消すかのよう、ステージから大音量の声が上がった。

「お待たせいたしました―――これより!皆々様にご披露致しますは!古今東西比肩するものなし、摩訶不思議ないきものに御座います!」
芝居調の司会者の、整然とした歯並びに松明の火が映り、赤々と揺らめく様は不気味に演出がかっていた。
「変な生き物だってさ、何だろう」
「くだらねえ。どうせ捕らえてきた獣人だろ」
「お貴族様はあいつらを見世物にするのが好きだって、死んだ婆ちゃんが言ってた。あいつらの方が豚によく似てらぁに」
侮蔑の眼差しを向ける少年達の目に飛び込んできたのは、しかし予想する姿とは異なっていた。確かに人型であるが、完全に人型である――そう――
「なんだ、人間の、ガキじゃねえか」
どこからともなく、見物人の野次がステージに投げられた。二人の黒い装束の大男に連れられてきたのは、僅か五、六歳ほどの少年であった。
簡素な衣装を纏い、顔は俯いている所為で良く見えない。首に巻かれた帯状の枷で、彼が奴隷身分であることが伺えた。
「あんな小さい子、どうしようってんだ」
「ペンダと同じくらいだぜ。まだ鼻水垂らして眠ってるような」
少年達の声は侮蔑から、険しい声音に変わってきている。まるで不穏な気配を感じているように。
それと対照的に、見物人のざわめきは好奇と疑念と期待に満ちていた。

「これなる少年は、一見普通の人の子に見えます、が、驚くなかれこの者はなんと―――『不死鳥』の末裔なのです!」
思わず噴出した盗賊少年らを、ハジが咎める、が、彼とて呆れた表情であった。そんな伝説上の生物が、どうしてこの場でお目にかかれよう。
それは観客らも同じであったようだ。市民らからは笑い声が、貴族のテラスからは溜息が漏れる。
その様子を見咎めるよう、大仰に司会者は声を張り上げる。
「皆々様、ご信じあそばさぬは至極道理に御座います…なれば百聞は一見にしかず!残り九十九を語るも惜しい、早速、その奇跡を御覧頂きましょう!」
ステージの少年を、向かって右側の大男が、首の枷を引っ張りステージ中央に突き出す。
よろけてたたらを踏む小さな足。乱れた髪のその純白さに、ハジは密かに目を引かれた。
左側の大男が、脇に置かれていた壷を、少年に向かって振りかぶった。壷の中の液体が、少年の頭から足までぶちまけられる。
鈍色の液体は、遠目からでは何であるか把握できなかった。が、風に乗って流れてきた、鼻腔を突く独特の不快臭に、仲間の一人が小さく悲鳴を上げた。
「…油だ!」
二人の大男は、ずぶ濡れの少年を挟んで対峙した。手に持った松明に、同時に引火する。見物人が息を呑む。まさか。
「まさか!」
ハジの叫びより一瞬早く、大男は同時に少年に松明を投げつけた。

弧を描いて落ちる小さな炎は、油に塗れた少年に当たった瞬間、火柱となって燃え上がった。
貴族の甲高い叫び、見物人の大きなざわめき、騒然とする観客達とは対照に、盗賊少年らは声も上げられない。
ただ黙って炎の塊を見つめる他ない一同には、一瞬にも永遠にも感じられた時間。
しかし、炎が突然勢いを増し、高らかに燃え上がったのを見て、観客から再び大きな悲鳴が上がる。
炎は勢いよく渦巻き、唸りを上げ、やがて空へ突き上げるよう高さを増すと、ふっと、嘘のように消え失せた。
その熱の名残が失せる頃、炎の柱の後にはただ一人、先程の少年が変わらぬ姿で立ち尽くしていた。
熱気に喉を焼かれたか、激しく咳き込んではいるが、炎上の形跡は見られない。
髪も、肌も、衣装ですら、一切焼けてはおらず、その光景にあっけに取られた観客らの気を取り戻させるよう、司会者は明るく声を張り上げる。
「如何でしょうか…これぞ不死鳥!炎に呑まれども灰の中より蘇る、正しく不死鳥の秘儀!皆様この類稀なる不可思議に、盛大なる拍手を!!!」
唖然としていた民衆は、ふと我に返ると、今度は大きな歓声を上げ、惜しみない拍手を捧げた。
ステージ上では司会者が、このような不可思議を所有する主人にあてた賞賛を、声高らかに歌っている。

「酷ぇ…」
誰とも無く呟いた盗賊少年の声は、見物人らの歓声に紛れたちまち掻き消える。
「何が不死鳥だ、あれは魔術じゃねえか」
歯軋りするような言葉に、少年盗賊らは声の主へと振り返る。
まるで苦虫を潰したようなハジの渋面に、彼らはおどおどと聞き返す。
「魔術…?」
「ハジが使うような…?」
「そうだ。あれは精霊魔法の類だ。俺が闇を扱うように。あいつはきっと、炎を使うんだ」
火が燃え移る瞬間、どことなく魔法の気配がした。そう付け足しながらも、目だけはステージから離さない。
ステージの少年は、肩を上下させながらも漸く呼吸が整ったようであった。滴る汗が、松明の照明にチカチカと煌く。
一瞬、少年は顔を上げた。乱れた白い髪から覗く濡れた目が、ハジの視線とかち合う。
少年にしては大きい、まるで黒真珠のような(ハジは黒真珠など見たことがなかったが、確かにこの時そう思った)漆黒の瞳。
それは刹那、この場にある全ての色彩を乱反射させ、まるで宝玉のように瞬いた。
ハジが息を呑んだ刹那、大男らはのそりと動き出し、ステージの少年を両脇から掴むと、乱暴に奥へと連れて行った。
観客の騒々しい歓声と、少年の静かな瞳。対峙し相反し拮抗し合う二つの存在の、その境界に立ち尽くしながら
成す術も無く、ハジはただ、唇を噛み締めた。

(続く)
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無題

うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!
姉さんの小説きたぁー!!!

やっぱり、こうして短編な感じででも見れると、キャラのことが知れて良いねー!!
頭のなかで動いてるよ
パー 2012/07/19(Thu)23:12:14 編集
無題
あれっ!!打っている最中に投稿されちゃった!
ごめんね!

見世物ショーマジで最悪だよ…。人間のしょうもなさがビシビシ伝わってくるぜ…(⊃Д`)°。°

なんか、日に日にアビの地獄感が理解できてきたのだけれど、アビに住んでいる人たちはアビからでようとは思わないのかな。
なんかアビだから、国境の関所を突破するのが困難っぽそうだよな…。
国自体はアビな(弱い)のに、国民に対しては大きく出てそうだな…
とかいって、同じ痛みを知る国民を超大切にしてたらどうしよう・・!ごめんなさい国王様~!

そして、朝の5時まで起きていた姉さん…
仕事、無事に全うできましたでしょうか…
こんな不健康にしてるから扇風機に当たっちまうんだYO-!!!!!!!
ウチに泊まりに来い!!!規則正しい生活を送らせてやる~!!
・・・とかいって、パソコン講座開いてもらってオールナイトさせてしまってたりして(死)
あ、ヴォルヒフさんって不眠症っぽいよね?(失敬な)違うかな…
パー 2012/07/19(Thu)23:26:11 編集
無題
クソ長い文読んでくれてありがてえよパーさん!読んでみたけどこの名前駄目だろwww人権wwwww

アビのクソ貴族どもはこんなんばっかだよ!上が完全に腐ってるんだよね。で、富豪層だけで形成されたコミニュティの中にいるから、誰もそれがおかしいことに気付いてない。
などなど、アビの諸々については、割りとツイッターでは呟いてるんだけど、コッチに描いてないことに気付いたので今から記事纏めてみるw
でも、国民に対しては大きく出てるはドンピシャだよ!弱いものが更に弱いものを虐げ、その弱いものが更に弱いものって感じ。負のサイクルが出来上がってる。
そして形容詞アビクソ笑ったwww違和感全然ねえな!


王様はクソ・オブ・マウンテンだよ!最初の頃の記事におるで。見るからにうんこな輩だぜ!

仕事余裕(で死んだ)!流石におうち帰ってきてPCの前に落ちたね。でもプーさんのピロパロで生き返ったよありがとう!
遊びにいきてー!ぜひ姉に健康ライフを授けてくれ!オールナイトロングでも全然構わんけどな!寝ないように枕用洗濯バサミで頭挟んどく。

ヴェルヒフはそこまで不眠症でもないかな!でもやることいっぱいであんまり眠れないみたい。個人は好きで研究してるからいいけど、あんまり根詰めるとキノコが育ち過ぎちゃいますよ府長!たまには陽に当たってください!
M28星雲 2012/07/20(Fri)06:51:42 編集
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