×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
1
赤子の泣き声と、産婆の悲鳴が響き渡るその部屋で、彼女の意識を捉えて離さないのは、赤子を包むように覆う水の幕であった。
薄い絹のカーテンのように揺蕩いながら、我が子と自分を隔てる水幕。
腰を抜かした産婆の叫びにも気を留めず、ゆっくりと手を伸ばすと、赤子に触れる寸前で、水幕は急に厚さを増し、自分の指先を弾いた。
愕然と感じる冷たい温度、私はこれを何か知っている。忘れもしない、全身を険しく浸した、あの冷たい川の温度。
―――ああ、この子は、私が何をしたかを知っている―――
赤子の泣き声と、産婆の悲鳴が響き渡るその部屋で、最後に響いたのは、彼女の絶叫であった。
2
「アルフィーネ、こちらへおいで。母様が絵本を読んであげましょう…」
我が子を留めようとした指先は、固い水の幕に触れ、その先に進めない。
もう五つにもなる一人息子は、母親の方を一瞥すると、その声が聞こえなかったように一人興じていたパズルへ目を戻した。
濡れた指先をハンカチで拭いながら、母親は深く嘆息した。
私は生まれてこの方、一度もこの子に触れられたことがない――。
特に最近は、かつては水越しとはいえ触れることを許されていた乳母すら、彼に近寄ることが出来なくなっていた。水幕は、彼が成長するにつれ、一層排他的になってゆく。
それが息子の意志か無意識かは分からない。彼は自身の特異を、特別気にも留めていないようだった。それどころか、時折一人水幕に向かって微笑むことすらある。水面に反射し、歪む世界が面白いのかもしれない。私は息子のその姿を見るたび、胃の腑に重いしこりが生じるのを感じる。
私はいつになったら、この子の世界に招かれるのだろう――。
夫は言う。フォンダリカ家は代々水源守護を司る家だ。あの子は、水神の加護を得て産まれたこどもなのだ――。
まるで自分を慰めるような言葉も、かえって自分には呵責の念を思わせるだけ。
この子は知っているのだ。私が、この子を水に殺めようとしたことを。流れてしまえ、流れてしまえ、確かにそう願った。まるでその姿は、私を罰しているようだ。愚かな人殺しを、その身を以って諌めているように。
私はいつになったら、この子に許してもらえるのだろう――。
水幕はドレープのよう、息子を隠しては、表して、また覆ってしまう。幾度も、幾度も。
3
彼女は日に日に、罪悪感と呵責の念に苛まれていった。
そしてある日、彼女は遂に耐え切れなくなった。
彼女は無理矢理息子を抱き締めようとした。自分の腹より出でてから、一度も触れたことのない我が子をその腕に留めようとした。
だが驚いたよう目を見開いた息子の顔を見たのが最後、彼女は全身を猛狂う水幕に飲まれた。
まるで瀑布のような水の勢いを感じながら、その絶対的な拒絶に、彼女に残っていた最後の理性が完膚なきまでに叩きのめされた。間一髪、彼女の夫が彼女を水幕から引き剥がした時、彼女は大きく目を見開いて、怯えた表情の息子を捉えた。
「ああ、私は決して、許されることがないというのね…!!!」
仰け反って、引き攣るような声で笑い出す妻を抱きかかえ、夫は無情なその光景に絶句し、やがてたまらずに息子に苦渋の声をぶつけた。
「お前は…お前は実の母親を…!母さんがどれだけ、お前を愛していたことか…!」
息子は呆然と両親を見つめながら、一言も発することなく、響き渡る母親の笑い声を全身に打ち付けられていた。
4
縁戚の家に、息子が預けられることとなったのは、それから間も無くのことであった。
名目は、自分がこれから通う学校に最寄の街であるから。実際の理由は、父も母も、息子と距離を置きたくなったからなのだろう。
特に母とは、完全に隔離すべきであったはずだ。
あの一件の後、彼女は完全に気が触れた。
最後まで愛せなかった夫。最後まで、愛させてくれなかった息子。身も世も縋るものがなくなった彼女は、今日もベッドの上で人形に頬擦りする。
「可愛いアルフィーネ…私のいとしいぼうや。お前がいてくれるなら、母様は何もいらないわ…」
虚ろな目の母親をドア越しに見つめ、息子は出立の挨拶を述べた。しかし息子の声は、母親の耳に届くことはなかった。
遠い街へと向かう馬車に揺られながら、幼い少年は手にした本を開くでもなく、ただぼんやりと夜の荒野を眺めた。
空に瞬く星は少ないのに、やけに視界が眩い。それが自分を覆う水幕に、彼方此方の光が反射している所為だと気付き、苦笑する。
そして思い出す。幼き頃の日々。水鏡にわざと母親を映して、それを見つめていたことを。
母は自分を呼べど、表情はいつも固かった。だが水面に映る母の顔は歪んでいて、それがどこか微笑んでいるように見えた。つられて笑っていたあの頃の児戯を思うと、自分の口元も笑みに歪んだ。
同時に落ちた一筋の雫が、幾らかの星の光に瞬きながら、音も無く水幕に落ちて混ざって
それはもう、二度と見つかることはない。
5
水幕は自分の意志とは関係無しに、他者を隔別し、或いは攻撃に及ぶこともあった。
それゆえ彼は、新しい街に行けども、必要以上に他者と交流することは無かった。周囲の人間も、彼の特異な体質を畏怖し、好んで近寄ろうとする者は殆どいなかった。
そんなある日、少年は河原で群れる同年代の子供達を見つける。
数人のこどもが何かに石を放ったり、手にした帽子などを川に投げ込んだりしている。
やがて子供達は笑いながらその場を後にし、少し離れたところに蹲る少年の姿が残された。
もう初夏に差し掛かっているというのにたっぷりとマフラーを巻き、長袖の服を着た、細身の少年。
その頭に、二本の角のようなものがあるのを認め、彼が誰であるのか理解した。最近起きた自然災害で壊滅した近街の、唯一の生き残りがこの街の大貴族に面倒を見てもらっていると聞く。それが、彼だ。
少年は川に放り込まれた帽子を、ぼんやり眺めている。浅瀬に引っかかっているものの、すぐに取れる位置ではない。
虐められていたのか。くだらないことをする連中だ。嘆息しながら、彼は水幕に指示し、帽子の元へと向かわせた。この程度なら、幾らか操れるようになっていたのだ。
角の少年は驚いたように目を丸め、水に差し出された帽子を受け取った。振り向いた彼と目が合う。ぼさぼさの深緑の髪から覗く、赤茶けた瞳。
その瞳が人懐こそうに、幼く微笑む。
「その水、凄いねぇ。かっこいいねぇ」
アルフィーネ=フォンダリカ。ヴェルヒフ=ラジアータ。
後に親友となる二人の、初めての出逢いである。
途中で漫画→小説に切り替えた…過去編ばっかじゃ本編にいけねえよ!
というわけでマエストロの過去話。久々の樹海の糸が沁みたんだ…。
PR
この記事にコメントする
無題
うををををーーーー!!!!!幼少期きたーーーーーーー!!!!!!はがぁっ!!!
てか府長、お子様の時から「~ねぇ」口調なんだww
ん?「~ねぇ」は、お子様口調か??そうか。今の府長がお子様口調なのか!?
そう考えると一層かわいらしいな・・・(*´Д`*)
しかしマエストロ…!!お母さんを見て微笑んでたのかよー!!(⊃Д` )°。°
触れられすらしないけれど、それでも母を愛しく思っていたのか。。。
お子様は、ひと肌に触れることで心身の安定を図って、そこから脳も発達して語彙が増えてくっていうから、当時マエストロさんには、お母さん大好きの気持ちを伝える言葉も術も備わっていなかったんだな…可哀想に・・!可哀想にマエストロ!!!(⊃Д⊂)°。°
シャサ王並みのコミュ障だったマエストロさんの前に現れた一人の細身(ここ、大分萌えるね)の少年…!!
ハジが白に一目ぼれした?感覚と、恐らく相違ない。
帽子取られちゃったよぉー!取れないよぉー!!!石が当たって痛いよぉ(⊃Д` )°とも何とも言わない府長!!!いじめられ慣れてる!!!なんてこと!なんてこと!!
あぁこんな時にジャミラがいたら・・・
しかしマエストロさんキター!!!コミュ障と思いきや、傍観しなかった!!!!
まさに救世主!!!!
でも、マエストロさんにとっても救世主!!!
そうか、相互扶助の関係なんだな二人は・・・
やっと、触れられもしない相手への接し方、愛し方を会得することができていくのか…だって、府長は愛情の中で育ったのだもの…!!(⊃Д` )°。°
マエストロさんが理解していなかった(と思われる)感情が、やっと言葉とイコールになっていくんだね・・・
本編も見たいが、この二人も見たい・・・・
ただひたすら頑張ってくれ…!!!(笑)応援しかできないが…待ってる!!°。°( ⊃Д)°
無題
来ちゃったぜー幼少期!!!こっから始まる二人のストーリーだぜ!!!
府長の喋り方なんだが、実は2パターンあるんだ!ゲヘナ前は、ぼんやりな性格ながらも貴族の子どもらしく、ちゃんと喋ってたんだぜ!(「僕に手伝えることはない?」とか)
今の間延びした喋り方はゲヘナ後からなんだぜ…。一族を失ったショックと、養子に貰われた後の過酷な現状(これは後に…)で、元から潜在していた深く考えない性格が異様に発達して、それに伴いのんびりに拍車がかかったんだ。尋常な精神で全てを受け止めると発狂すると、無意識に精神が防衛しちまったんだ!
今は素でぼんやりしてるだけだけどな!
研究員「あ!府長こんなところで寝ないで下さい!キノコかと思って踏んじゃいますよ!」
府長「キノコはねぇー…適度に刺激を与えると大きくなるんだよぉー…ぐぅー…zzz」
プーサンの児童心理の読みが深すぎるよwww流石プロ!!!ヤベー、マジ勉強になるというか、想像の中でも幼少期のマエストロはあんまり喋らないこどものイメージだったんだが、性格だけでなくそういう成長障害みたいな一面もあったのかと…すげーぜプーサン…!!!
マエストロは結構両親が好きだったんだが、やはり触れられないものには超えられない距離感を感じていたのか、ちょっと他所他所しい親子関係だったっぽいな…。
でもコミュ障ではないんだぜ!ちょっと周りと距離を置きたい派だっただけなんだぜ!一応貴族の御曹司なので、社交術はそれなりにあるんだぜ!シャサ?ああ、アイツはドコミュ障´∀`
だがそんな鎖国状態の少年の前に現れた細身(に萌えてくれるのかwwwあざす!)の少年は、彼の心に無理矢理触れてくるでもなく、かといって離れるでもなく、絶妙な距離で傍にいるようになるんだ。
ハジと白wwwwwマエ「いや、間違っても黒真珠とは思わなかった」ハジ「何で知ってるんだよ…ッ!(真っ赤)」
虐められ慣れてるし、それ以上に前述のぼんやりが最高潮で、悲痛や怒りがあんまり現れないこどもになっちまってる府長なうだぜ。しかし取れないよぉー!!(⊃Д` )°に笑ったwwwなんかまぬけカワイイwww
ジャミラwwwwwアイツだってこの頃は人間のはずwwwでもそうだね…今のジャミラがいたら絶対虐められないよ…鉄壁になってくれた筈…ジャミラの肩に乗っかって移動だよ…あの広すぎる肩にな…。
マエストロは今も昔も、結構正義感が強いんだ!プーサンのようだぜ!まあ、悪事に対しても潔癖だっていうとこなんだが…。
そうなんだ!相互扶助の関係!やってくれるぜプーサン!今のダリカとカマツキスの関係は、そのまま二人の関係なんだ。
府長もマエストロも、互いに接しあうことによって漸く人間として成長してゆくことになるんだ…。府長は今まで家族に貰った愛情を惜しみなくマエストロに注ぐし、マエストロは府長のオアシスとして心の拠り所になる。そしていつしか親友になる。
…てとこを次回に描くぜー!!!もうプーサンの感想&考察が楽しみ過ぎてバリバリ頑張っちまう!ありがとうー!!!///
府長の喋り方なんだが、実は2パターンあるんだ!ゲヘナ前は、ぼんやりな性格ながらも貴族の子どもらしく、ちゃんと喋ってたんだぜ!(「僕に手伝えることはない?」とか)
今の間延びした喋り方はゲヘナ後からなんだぜ…。一族を失ったショックと、養子に貰われた後の過酷な現状(これは後に…)で、元から潜在していた深く考えない性格が異様に発達して、それに伴いのんびりに拍車がかかったんだ。尋常な精神で全てを受け止めると発狂すると、無意識に精神が防衛しちまったんだ!
今は素でぼんやりしてるだけだけどな!
研究員「あ!府長こんなところで寝ないで下さい!キノコかと思って踏んじゃいますよ!」
府長「キノコはねぇー…適度に刺激を与えると大きくなるんだよぉー…ぐぅー…zzz」
プーサンの児童心理の読みが深すぎるよwww流石プロ!!!ヤベー、マジ勉強になるというか、想像の中でも幼少期のマエストロはあんまり喋らないこどものイメージだったんだが、性格だけでなくそういう成長障害みたいな一面もあったのかと…すげーぜプーサン…!!!
マエストロは結構両親が好きだったんだが、やはり触れられないものには超えられない距離感を感じていたのか、ちょっと他所他所しい親子関係だったっぽいな…。
でもコミュ障ではないんだぜ!ちょっと周りと距離を置きたい派だっただけなんだぜ!一応貴族の御曹司なので、社交術はそれなりにあるんだぜ!シャサ?ああ、アイツはドコミュ障´∀`
だがそんな鎖国状態の少年の前に現れた細身(に萌えてくれるのかwwwあざす!)の少年は、彼の心に無理矢理触れてくるでもなく、かといって離れるでもなく、絶妙な距離で傍にいるようになるんだ。
ハジと白wwwwwマエ「いや、間違っても黒真珠とは思わなかった」ハジ「何で知ってるんだよ…ッ!(真っ赤)」
虐められ慣れてるし、それ以上に前述のぼんやりが最高潮で、悲痛や怒りがあんまり現れないこどもになっちまってる府長なうだぜ。しかし取れないよぉー!!(⊃Д` )°に笑ったwwwなんかまぬけカワイイwww
ジャミラwwwwwアイツだってこの頃は人間のはずwwwでもそうだね…今のジャミラがいたら絶対虐められないよ…鉄壁になってくれた筈…ジャミラの肩に乗っかって移動だよ…あの広すぎる肩にな…。
マエストロは今も昔も、結構正義感が強いんだ!プーサンのようだぜ!まあ、悪事に対しても潔癖だっていうとこなんだが…。
そうなんだ!相互扶助の関係!やってくれるぜプーサン!今のダリカとカマツキスの関係は、そのまま二人の関係なんだ。
府長もマエストロも、互いに接しあうことによって漸く人間として成長してゆくことになるんだ…。府長は今まで家族に貰った愛情を惜しみなくマエストロに注ぐし、マエストロは府長のオアシスとして心の拠り所になる。そしていつしか親友になる。
…てとこを次回に描くぜー!!!もうプーサンの感想&考察が楽しみ過ぎてバリバリ頑張っちまう!ありがとうー!!!///